研究テーマ

地球表層から地球深部への炭素、窒素循環

水素、炭素、窒素といった軽元素が地球上のどこに・どの程度・どのような形で存在しているか、全地球規模での物質循環を明らかにすることは、地球の進化を解明する上で重要な研究課題です。私たちは地球表層の物質が深部へと供給される唯一の場である沈み込み帯に着目し、その温度圧力条件等を模擬した室内実験によって、沈み込み帯における軽元素化合物の挙動の解明を目指しています。
 地球表層の海洋底に堆積した炭酸塩鉱物や堆積物有機物は、海洋プレートの移動に伴って海溝から地球内部へと運ばれます。地球深部でつくられるダイヤモンドの中には地球表層の生物起源と考えられるものが見つかっていることから、地球表層から沈み込み帯を経由して、最終的にマントルまで炭素が運ばれる炭素循環があることが分かります。しかし、生物起源炭素、すなわち堆積物有機物のうち、どの程度が最終的に地球内部のマントルまで運ばれ、長期的に炭素がダイヤモンドなどの形でマントルに貯蔵されるのか、あるいは沈み込む途中で地球表層へと戻っていくのか、その詳細は未だ明らかになっていません。この問題を明らかにするためには、プレートの沈み込みにともなって温度や圧力が上昇した時に、堆積物有機物の化学組成や分子構造がどのように変化するのかを理解する必要があります。そこで私たちは堆積物有機物の重要な構成要素である様々な有機分子を対象に、高温高圧条件での化学反応を調べ、スラブを構成するケイ酸塩鉱物との相互作用を検証しています。
 また、マントルは深くなるにつれて還元的になり、メタンや水素、炭化水素が存在することが指摘されています。メタンや水素、二酸化炭素流体を対象に、上部マントルでの安定性や化学反応、共存するマントル鉱物との相互作用について調べています。

n-C25の高温高圧下での反応生成物のGC/MSスペクトル. 
高圧ほど重合反応が進行し、高分子アルカンが生成しやすい. 

高温高圧実験後の芳香族化合物:重合反応の進行とともに回収試料溶液の色が変化していく
(左へ行くほど反応が進行した試料)

【関連論文】論文リストへ

  • A. Shinozaki, Effect of Pressure on the Thermal Cracking and Polymerization of Pentacosane (n-C25), an n-Alkane,  ACS Earth and Space Chemistry, 7, 69-76 (2023)
  • A. Shinozaki, K. Mimura, and T. Nishida, G.D. Cody, Polymerization mechanism of nitrogen-containing heteroaromatic compound under high-pressure and high-temperature conditions, Journal of Physical Chemistry A, 125, 376-386 (2021)
  • A. Shinozaki, H. Kagi, N. Noguchi, H. Hirai, H. Ohfuji, T. Okada, S. Nakano, T. Yagi, Formation of SiH4 and H2O by the dissolution of quartz in H2 fluid under high pressure and temperature, American Mineralogist, 99, 1265-1269 (2014)

高圧下における有機物の化学反応

アミノ酸のペプチド化に代表されるように、単純な有機物が高分子化してより複雑な有機化合物が合成される反応は生命誕生以前の化学進化にとって重要なプロセスと考えられています。私たちは有機物の化学反応を引き起こす駆動力としての圧力に着目して、ベンゼンなどの芳香族化合物や鎖状炭化水素、アミノ酸など、様々な有機物の圧力誘起反応を調べています。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)とラマン・赤外分光分析を用いて高圧下のその場観察から化学反応条件を調べ、さらに、ピストンシリンダーやマルチアンビルプレスなどの大容量高圧装置を用いた高圧実験と、回収試料の質量分析をはじめとする有機化学的分析から、高圧下での化学反応プロセスを調べています。また、外部の共同利用施設(PhotonFactry(KEK), MLF (J-PARC))を利用した高圧下その場放射光粉末X線回折測定および粉末中性子回折測定等から、固体有機結晶の結晶構造や分子間相互作用の圧力変化を調べています。

ベンゼンとナフタレンの圧力誘起反応

ダイヤモンドアンビルセル(DAC)で加圧した
1-ヘキセン。周辺から結晶が成長していく様子が観察できる

【関連論文】論文リストへ

  • A. Shinozaki, T. Nagai, H. Kagi, S. Nakano, Pressure-induced irreversible amorphization of naphthalene and nitrogen-containing heteroaromatic compounds at room temperature, Chemical Physics Letters, 136921, (2020)
  • A. Shinozaki, K. Komatsu, H. Kagi, C. Fujimoto, S. Machida, A. Sano-Furukawa, and T. Hattori, Behavior of intermolecular interactions in α-glycine under high pressure, The Journal of Chemical Physics, 148, 044507 (2018)
  • A. Shinozaki, K. Mimura, T. Nishida, T. Inoue, S. Nakano, H. Kagi, Stability and partial oligomerization of naphthalene under high pressure at room temperature, Chemical Physics Letters662, 263-267 (2016)
  • A. Shinozaki, K. Mimura, H. Kagi, K. Komatsu, N. Noguchi, H. Gotou, Pressure-induced oligomerization of benzene at room temperature as a precursory reaction of amorphization. The Journal of Chemical Physics, 141, 084306 1-7 (2014)

リンと生命の起源

リン(P)はDNA/RNA, ATP, リン脂質などすべての生命が共通して持つ生体分子に含まれる生体必須元素でありながら、他の主要な生体必須元素に比べて太陽系における元素存在度が非常に低いことが指摘されています。リンは様々な鉱物に含まれていますが、初期地球において、無機鉱物から有機リン化合物が作られ、最終的に初期生命がリンを利用するに至ったのか、その過程の詳細は未解明な点が多く残されています。私たちの研究グループではリンの化学進化プロセスを明らかにするために、初期地球環境を想定した室内実験を行っています。
さらに、リンを利用した生命が地球以外に存在しうるのかを探るため、氷天体内部の高圧条件におけるリンおよび生体関連分子の化学進化を調べています。

リンの化学進化の例:リン酸とグリセロールの脱水縮合反応